山田詠美の『風味絶佳』の表題作は、70歳でアメリカかぶれのハイカラな祖母を青年の視点から描いたものだが、時代は2004年に設定されている。ということはこの祖母は1934年生まれ、敗戦時は11歳、二十歳の頃は1954年である。この祖母が「キッス」と言うと青年が、「あの年齢なら接吻と言って欲しかった」と言う。この短編集の男の主人公はみな、大学へ行かなかった者たちで、その彼が「接吻」なんて言葉を知っているかどうかはともかく、1954年に青春時代を送った人が「接吻」なんて言うはずがない。キッス全盛の時代である。
私が、小野正嗣の三島賞受賞作で、やはり現代を舞台として、祖父が若い頃近衛連隊に入隊し、馬に乗って「東京(とうけい)へ登ってまいる!」などと言ったという叙述に、現代の青年の祖父なら昭和初年だろう、これじゃまるで明治初期だ、としつこくからむのは、こういう、祖父母の類型へのもたれかかりがあるからで、確かに山田や私の祖父母なら明治生まれだが、今の青年の祖父母は歴然たる昭和生まれの戦後育ちなのである。山田は、自分の祖母と混同して描いているように思える。
この手のアナクロニズムは、映画『男たちの大和』にもあって、アイスクリームを持ち出して「アイスクリン、ちゅうんじゃ」などとやっているが、それじゃ明治初年の話である。昭和20年なら、アイスクリームなど東京では普通の食べ物である。どうも若い人には、明治から昭和20年まで、ひとつながりに同じような時代だと思う傾向があるらしい。
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「篤姫」また少しつまらなくなってきた。堀北真希、相変わらずよくない。若村麻由美は美しい。中村メイコ、宮崎あおいの後ろで演技忘れてるぞ。あと気になるのが大久保一蔵で、どうしても大久保に見えない。「翔ぶが如く」の西郷と大久保の完璧に近いキャスティングを知っていると、あの西郷と大久保はどうも変だ。
(小谷野敦)