文筆家の確定申告

 季節はずれなのだが・・・
http://yuzuki-ikuto.sblo.jp/article/12241524.html
 官能小説家の柚木郁人(ゆずき・いくと)さんが、税務署へ行って自分の書名の書いてある支払調書を見せるのが恥ずかしいと書いている。
 私も税法上は文筆業だが、この六年くらい、確定申告は郵送で終りである。なんで行かなきゃならないのかな。一時期は必要経費の領収書も全部送っていたのだが、二年くらい続けて、要らないといって返ってきたので、以後送っていない。だいたい税務署が本気で査定するには五千万くらい年収がなきゃね、それ以下はまあどうでもいいのだ。
 ところで税務署からは、文筆家用の書類様式も送られてくるのだが、これは使ったことがない。何しろこれは、この年何を連載して単行本としていくらの収入などと書き込むようになっていて、使えないからである。
 第一税金というのは一月から十二月までの収入に対して払うもので、一年の間に連載が終了して単行本になる、などということはまずないし、大方の文筆家は連載を本にするどころじゃなくて、あっちこっちに雑文を書いて凌いでいるのが実情であって、こんな用紙が使えるのはごく一握りの人気作家だけだろう。税務署というのは、文筆家というのはみな石田衣良のような人気作家で、連載して単行本にして生きていると思っているらしい。

(活字化のため削除)
 (小谷野敦