「逆ギレ」の濫用

 最近、「逆ギレ」という言葉が濫用されている。まあ、といっても「逆ギレ」自体が流行語なのだが、これは本来、AがBを叱責したりしている時に、当初は、すみません、などと低姿勢だったBが「なんでそこまで言われなきゃならないんだ」と怒り出すといった状況で使われる言葉だった。
 ところが最近では、別にそういう状況でもないのに、誰かが、人から何か問われて、いくぶん攻撃的な口調になるだけで「逆ギレ」というようになってしまった。
 たとえば、全面禁煙などとバカなことになっている地上駅のプラットフォームで私が喫煙していて駅員が注意しても、私は最初から「なんでいけないんだ」と怒るから、「最初は低姿勢」という条件に当てはまらないが、まあ駅員としては「逆ギレ」と言ってもおかしくはあるまい。

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似た例で、往年の「根クラ」がある。これはタモリが言い出したもので、「見た目は明るいが根が暗い」の意味だったのに、たちまち、見た目からして暗い、という意味に変わってしまった。「根」はどうしたんだ。私なんか大学一年のころはよく「暗い」と言われたものだ。
 (小谷野敦