大草原の小さな家

 今度DVDになるらしい。私は六年ほど前、近所でヴィデオ全30巻ほどを一万円で売っていたので衝動買いしたことがある。
 私が小学校高学年の頃からNHKで放送していたもので、断続的に大分続いた。最初は熱心に観ていたが、最後のほうはさすがにどんどん話がへんてこになっていって、観なくなった。原作はローラ・インガルス・ワイルダーの自伝シリーズでインガルス一家の物語。ドラマの題名はその第二作からとっているが、舞台になっているのは第三作『プラム・クリークの土手で』の、ミネソタの南西部の町、ウォールナット・グローブの外れである。私は中学生の時、この舞台のそばの町でホームステイしたのだが、そのことに気づいてステイ先の人々に話しても、さして気にかけていないようだった。アメリカでも人気ドラマではあったろうから、日本なら「ローラの町」とかいって観光地になって大変だろう。
 当然ながら、ドラマは原作よりよほど派手で、父さんのチャールズはむやみと怪我をしていたし、後の方になると毎回事件が起きていた。それにしても、『聖母のいない国』だか、どこかに書いたけれど、レーガン大統領が好きだったというくらいで、清教徒の国アメリカの、家族礼賛ドラマであって、原作では引っ越し癖が激しい父親に家族は悩まされるのだが、ドラマではウィスコンシンの森の中からミネソタへ出てきて、ずっと住み着いている。父さんは父親の理想像みたいな人で、アメリカ人に訊くと「あんなのはウソだ」と言うのだが、人種的偏見の激しい奴とかが出てくると、父さんは我慢を重ねたあげくにそいつを殴り倒したりする。この殴り方が、いかにもジョン・フォードの「わが谷は緑なりき」なのだが、後半になるとリベラル派に配慮したのか、黒人女性が友人として出てきたり(19世紀末の北部でそんなことがあったかどうか疑問だが)、血縁でない男の子を養子にしたりしていたが、もちろん最初から、女子ばかり生れるインガルス家で男の子が生れて父さん母さんが大喜びするのだが夭折してしまい、ローラは父さんは男の子が欲しいんだと思って山へ登って神様に願うと、アーネスト・ボーグナイン扮する謎の男が現れて、そんなことはないんだよと諭してくれて、父さんが探しに来たときにはジョナサンと呼ばれるその男は姿を消していて、実は神様か天使に違いなく、このスペシャル編「ローラの祈り」はそれだけですごい感動モノなのだが、父さんも母さんも浮気なんかしないし(ちょっと母さんのほうで心の動きみたいなのはあった)、たとえば『サウンド・オブ・ミュージック』は、その健全さにおいて似ているように見えても、妻を亡くしたトラップ大佐の多くの子供たちの家庭教師になった女が後妻になる話で、家族の多様性を認めているのだから、もうちょっと「大草原の小さな家」を子供に見せるのは考えもので、くらいのことをリベラル派の人は言ってもいいのではないか。
 独身で中年のベーカー医師が結婚を断念するエピソードなんか、どうも納得が行かない(これを演じたケヴィン・ハーゲンは2005年死去)。ウィラ・キャザーの『私のアントニーア』なんて、高校時代の英語の教科書に載っていたものを見るといかにも健全なアメリカ中西部の農民の生活のようだったが、全部読むとちゃんと成長したアントニーアはセクシャルな面も見せている。しかし『大草原・・・』は、婚前性交渉だって全然ないし、悪役の娘ネリーが駆け落ちした時だって、両親が追いついて婚前交渉は阻止するし、何かちょっと、あれなんである。