畔柳二美(一九一二‐六五)というのは、まあ忘れられた作家だろう。一
九五五年に、自伝的な小説「姉妹」(きょうだい)を発表して毎日出版文化
賞をとり、映画化された。
私が中学生の時、NHKの「少年ドラマ」になったのだが、いったいこの
原作はどこにあるのだろうと思うほどで、文庫版などはなく、数年のちに、
偕成社の「ジュニア版日本文学名作選」に入っているのを発見し、あ、これ
かと思った。二美が「ふみ」と読むのを知ったのはさらにあとになる。
桐野夏生の『IN』という小説は、島尾敏雄をモデルとして、『死の棘』
に出てくる愛人が誰かということを穿鑿していくものなのだが、そこで出て
きた名前が、変名ながら明らかに畔柳二美なので、私はあわててあれこれ畔柳について
調べたのだが、梯久美子が連載していた「島尾ミホ伝」を見ると、別の女性
のようで、なあんだとなったのであるが、さて「姉妹」はその代表作で、か
ろうじて知られているのはこの作くらいである。北海道で育つ姉と妹を描い
ているが、これは電力会社に勤める父と、その労働組合を描いた左翼的な原
作なのであった。テレビドラマでは何ということのない話だったが、家城と
新藤兼人の脚本は、むしろ労働運動のほうに焦点を当てたものだった。
家城(いえき)といえば、鉄道の機関士を描いた「裸の太陽」(一九五八)が私は好
きで、江原真二郎、丘さとみ、中原ひとみ出演で、特に劇中で歌われる「釜
炊き釜炊け釜を炊け」という「汽車の釜炊き」の歌がいい。昔は勤労感謝の
日の朝になると、NHKで、今井正の「米」などの労働者映画が放送されて
いたものだが、いつしかなくなってしまった。