堀田善衛といえば、宮崎駿が大ファンを公言しているため、最近また読まれているようで、これも集英社文庫で二冊で出ている。自伝的小説だろうが、読んでいて小説を書く技術がうまいのには感心したが、ちょっと登場人物がヨーロッパ文学に心酔しすぎで、大江健三郎みたいである。実際、大江がのち自作に用いたクライストの「ミヒャエル・コールハースの運命」も出てくる。それはいいのだが、ドストエフスキーとトルストイに心酔しすぎで、徹夜で「戦争と平和」を三日で読んだとか、英訳で読んだとか、まるでこれらの作家は熱病のように描かれている。私は高校一年のころ、大江のそういう言葉を信じて「白痴」を読んでわけが分からなかったことがあり、今でもここでの若者らのようにドストを面白くは読めない。