どんぶらこ

 先日大西(伊藤)由紀さんの博士論文審査へ行ったら、北村季晴のお伽歌劇「どんぶらこ」を論じた部分があって、審査員の児玉龍一さんが、なんで「どんぶらこ」なんでしょうと言い、三好松洛の浄瑠璃「楠戦話」に、川を流れるのを「どんぶりこ」と表現しているのがあって、そこから来たのではないかと言っていた。
 調べてみると、明治期の『桃太郎』の本では「どんぶりこっこ、すっこっこ」といって桃が流れてくるのが一般的で、北村の歌劇で「どんぶらこ」になったのだということが分かった(ただしまだ十分な調査ではない)。
 そこでウィキペディアの「桃太郎」の項を見たら、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%83%E5%A4%AA%E9%83%8E
「また赤本、豆本黄表紙、青表紙などに登場した桃太郎は、曲亭馬琴の『童蒙話赤本事始』で五大昔噺の冒頭を飾る[3]。」とあって、これは斎藤英喜が『歴史読本特別増刊・事典シリーズ〈第16号〉日本「神話・伝説」総覧』新人物往来社、1992年)の「桃太郎」の項に書いているのだが、『童蒙話赤本事始』は『新日本文学大系 草双紙集』(1997)に入っている合巻で、かちかち山、猿蟹合戦などをないまぜにして、「卯佐吉」とかいった人格化がされた一つの物語であって、桃太郎が冒頭を飾る、なんてことはないのである。それに「青表紙」ってのは『源氏物語』の「青表紙本」として使われるが、徳川期に「青表紙」ってのは聞いたことがない。だがこれを見て、「桃太郎」を最初に活字にしたのは馬琴だなどと書いている人がいるから(斎藤だってそうは書いてないのに)困る。