『文藝春秋』にラテンアメリカ文学者の田村さと子が川端のことを書いていた。主にガルシア=マルケスがいかに『眠れる美女』が好きだったかという話で、「空を飛ぶ眠れる美女」と、『わが懐かしき娼婦たちの思い出』を書いている。後者は駄作。大江健三郎は後者を書く前にガルシアから、『眠れる美女』のモデルを紹介してほしいと言われ、断って、本を読んで、紹介しなくて良かったと言っている(尾崎真理子のインタビュー)。ってことは大江はモデルを知っているんだな。
もう一つ、マリオ・バルガス=リョサも『嘘から出たまこと』という批評集で『眠れる美女』を礼賛していると田村が書いていたので、読んでみた。あまり出来のいいエッセイではないのだが、冒頭に、谷崎のフランス語に訳された作品を読んだら、辛酸をなめたヒロインが、家へ帰って魚料理をするところで作品が終わっていて、これが日本的な美なのかと感嘆し驚いていたら、友人から、あれはフグを料理しているので、これからそれを食べて死ぬのだと聞かされて、マリオの詩的解釈は台無しにされた、とある。
だが、谷崎のそんな作品は、思いつかないのである。端的に言えば、ない。訳者は寺尾隆吉だが、ここは注をつけてほしかったなあ。
誰かバルガス=リョサに連絡をとって何を読んだのかつきとめて比較文学会で発表してくれないかな。これほど比較文学的な話題もないと思う。