中学校の同窓会

 五、六年前のことか、中学校の同窓会があったが、私は行かなかった。大学時代にいっぺん行ったがそれきりである。何しろ田舎の公立中学であるから、もう悲惨なことになるのは分かり切っている。阪大を辞めた当時ならまだ良かったが、その後となるともう色んなことを言われるに決まっている。
 島田荘司の『写楽 閉じた国の幻』の主人公の境遇が私と似ていると言われたので、三十人分くらい待って図書館で借りてきて見た。主人公は1959年生まれで、浜田山で育ち、東大を出たがその大学院へ行けず、N大芸術学部というから日大の大学院へ行った浮世絵研究家である。その後すぐ母校の助手になったらしい。87年、28歳の時に講師になり、学長のお声がかりで川崎準ミスとかいう娘と結婚したが、その後学内抗争で大学を逐われ、長野県の浮世絵美術館の学芸員になったが、そのうちそこも出ることになって自宅で学習塾を開いている。今は45歳で、子供が一人いる。
 私というより高橋克彦の経歴に似ているのだが、おかしいのは、修士課程を出たあと「江戸美術を講じる教員に職を見つけた」とあって、母校でないところの講師か何かになったらしいのに、後の記述では、助手から講師になったと見えることで、たぶん島田が大学のことを良く知らないのだろう。第一、妻の父親は結構な地位があって、娘が嫁き遅れになりかけたので、東大卒ということで主人公に白羽の矢が立った、とあるのだが、東大卒で日大の大学院へ行くなんてよっぽど無能である。それに島田は、助手というのは普通に講師に昇格するものだとでも思っているのではないか。 
田中貴子先生はこの推理作家が好きらしいが、私は読んだことがない。それに写楽の正体なら、斎藤十郎兵衛である。何で未だにやっているのか。斎藤十郎兵衛だというのは高橋克彦も認めているので、島田は高橋に挑戦するという意味合いもあるのだろう。しかしあとがきを読んで、結構異様な文章だと思った。「写楽は誰か」という命題、と誤用があるし、西暦と和暦の対照表を「NET」上で見つけてくれた人がいるとか、東大史料編纂「室」の「室長」が編集者の先輩だったとか(史料編纂所である)、オランダ商館長日記を英訳で読んだら目当てのものが見つからなかったのでオランダ語で読んでもらったら同じだったとか、いろいろ変なことが書いてある。
 だいたい、片桐という美人東大教授が出てくるのだが、その人がプリンストンにいたと聞いて、この東大卒の浮世絵研究家は驚くのだが、なんでプリンストンくらいで驚くのだ。主人公は東大卒なのに、そういう意識になっていない。
 ところでこの本は、題名にもあるように、鎖国日本、ひいては現代日本を批判する意図もあるようなのだが、図書館から借りた本に鉛筆の書き込みがあって、「日本人」とあるところがいちいち丸印がしてあり、最初の箇所では欄外に「じゃあ、半島人はどうなんだ、在日は……」といった「差別落書き」がしてあり、消しゴムでちょっと消してあった。こういうのは大学で発見されると、形式的な遺憾の意の表明がおこなわれる。