「凝った翻訳」の問題 

 柴田天馬訳『聊斎志異』がちくま学芸文庫で出たが、私はこの有名な柴田訳を、はじめ『ザ・聊斎志異』って一巻本で買って、あまりに字が小さくて読みづらいので、改めて角川文庫全四冊を古本で買ったが、いざ腰を据えて読み始めると、スラスラとは読めないのである。
 柴田訳は、ぱっと眺めて、うわあ面白い、と思う分にはいいのだが、いざ、『聊斎志異』とはいかなるものであろうかと思って読み始めると、あの特異なルビに目をとられて、物語として読み進められないのである。
 凝った翻訳でいえば、平井呈一の、二種類の訳があるウォルポールの『オトラント城綺譚』や、岩波文庫の『床屋コックスの日記・馬丁酔語録』などがあるが、これも、覗く分にはいいのだが、まともに翻訳されているとは言い難いし、後者など、そもそも作品自体がそれほど面白いかどうか。
 翻訳不能と言われたジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』も、柳瀬尚紀が訳して評判になりはしたが、さて、これで全部あの翻訳を読み通したって人がいるだろうか。