ちくま学芸文庫の『乳房論』を読んでいたら、まあいい翻訳なのだが、ソジャナー・トゥルースという黒人女性の話で引っかかった。これは1858年インディアナ州で黒人奴隷解放運動家の黒人女性が話をしていたら、「奴隷制支持者の一群が彼女の性的アイデンティティに挑んだ」とあり、ソジャナーは乳房をあらわにして、「あたしは女じゃないってのかい?」と言ったという。
 これは近頃有名になった話らしいのだが、この訳文はいかにも生硬で、おそらく訳者は、実際は何が起きたのかわかっていなかったのだろう。調べたが、どうも「女は黙ってろ」みたいなことを言われたらしい。98年単行本、2005年文庫だから、ここは直せたと思う。
(付記)小山エミさんによるとこの二つは別の事件で、1958年に、「お前、女じゃないだろう」と言われて乳房をあらわにし、1852年に「あたしは女じゃないってのかい?」という演説があったという。どうやら英語のソジャナー・トゥルースに関する本は多いが、日本では出ていないらしい。それにこの翻訳、「ソージョーナー」って書いてあるけど、ソジャナーだろう。

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大仏次郎天皇の世紀』は、なんか知っていることばかり書いてあるような気がして買ったまま放置していたが、今度読み始めたら、「シナ」が盛んに出てくる。朝日新聞の連載なんだが、1970年前後はまともだったというわけ。あと高島秋帆に入門した薩摩の鳥居平八、平七兄弟というのが出てきて、なんだか曽我十郎、五郎みたいだなと思ったが、こんな兄弟、ホントにいたんだろうか。