こないだから、村上春樹の曽祖父は国木田独歩だという人がいる。何でも英語版ウィキペディアに書かれたこともあるそうな。
http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Haruki_Murakami&diff=44000587&oldid=42539512
独歩は1896年に最初の妻佐々城信子(有島武郎『或る女』のモデル。詳しくは私の『片思いの発見』に書いてある)と別れ、絶望して京都の内村鑑三を頼り、渡米を考えたが果さず、しかしその間に、近所の寺の娘と関係して妊娠させ、それを知らずに京都を去り、生まれたのが祖父で、しかし娘は若くして死に、子供はその後寺の住職になってこれが父方の祖父だそうな。
しかし話はさらに不気味で、その娘は「直子」といい、これが『ノルウェイの森』のモデルだというのだから話は眉唾ものである。しかし独歩の曾孫だから文才があるのだ、とかいうのはバカバカしい。漱石の孫とか鴎外の孫とか露伴の曾孫とか太宰の娘とか、そんなものはごろごろいるし、大江健三郎は何の子孫なのか。大江匡房の子孫ででもあるのか(ただ大江自身そのことは気にしているらしいのは、大江氏である和泉式部について短編を書いているので分かる)。
これを私に伝えた人はやたら興奮しているのだが、「村上春樹+国木田独歩」で検索すると、自分でそう書いていた、という記述が見つかる。何でもいいのだが、黒岩比佐子さんの意見を聞きたいところである。なお佐々城信子のほうも独歩の子を妊娠していて産むのだが、独歩はのちに信子の醜聞を描いた「鎌倉丸の艶聞」で初めてそれを知ることになる。
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マルローの翻訳で知られる小松清(1900−62)のほかに音楽家の小松清(1899−1975)がいたのはともかく、後者はミュッセの翻訳もしていることに気づいて愕然。
(小谷野敦)