蟹工船騒ぎ

 『蟹工船』が売れているとかで話題になっている。大変気持ち悪い。第一に、火付け役が雨宮処凛というところが胡散臭い。雨宮は「元右翼」と言っているが、「左翼」になったという気が私にはしない。だって尊皇家の佐藤優と対談しているんだもの。貧乏で大変と言いつつ最後は天皇陛下にお縋りするような気がしてならぬのである。
 毎日新聞の記事では赤木智弘も出ていたが、これまた胡散臭い。だいたい2.26事件というのは、東北の飢饉による貧困の広がりの中で、中産階級と政党・企業を中心とする政治に不満を抱いた青年将校らによって起こされたものであり、現に戦争が始まれば経済は一時的にであれ好転するのである。
 まあ、今の日本でいきなり自衛隊がクーデタを起こしたり戦争が起きたりするはずはないからいいのだが、別に小林多喜二は満天下の紅涙を絞るために作品を書いたのではなくて、革命を起こすために書いたのだからね。しかしそんなの起きる気配など塵ほどもないし、単に文庫界の帝国主義新潮文庫を潤わせているだけというのが何ともはや皮肉である。(青空文庫にあるからね)http://www.aozora.gr.jp/cards/000156/card1465.html
(ここにもある)
http://www.takiji-library.jp/collection/read/kanikousen/index.html

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 安西徹雄先生が亡くなった。もう五年以上前になるだろうか、ネット上で私のエッセイを公開して金をとるみたいなプロジェクトに誘う電話が掛かってきて、安西先生の訳したシェイクスピアなんかもやる、というので、どうしたものかと面識もない安西氏に電話してお尋ねしたら、話は来ていますが決まったわけではないです、とのことで、数日後さらにお葉書が来て、あまり係わり合いにならないほうが、と書いてあった。いい人から先に死ぬものである。

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サンデー毎日』で池内紀先生が、今泉みね子の『クルマのない生活』の書評に事寄せて、エコロジストを名乗りつつ平然と自動車を使う連中を揶揄していた。さすがである。どうせ大広告主に配慮してだろうが、『それでもクルマに乗るための100の知恵』なんという本を出す朝日新聞出版は爪の垢でも煎じて呑むがよい。死刑廃止論者は、それほど人命が大切だというなら、自動車をこの世からなくすよう訴えたらどうか。

http://d.hatena.ne.jp/shoonbough/20080604
久しぶりに正体不明君から誤字の指摘を受けた。残念ながら『リアリズムの擁護』は、愕然とするほどの小部数しか出ていないので、多分直せない。
>天賦の才能に幾い」とあるがなんのことやらわかりません。
 「ちかい」と読むのです。
>どうして二十歳前後の人間についてのみ使える呼称を三十歳の人間につけるのか。
 誤用というほどに目くじらたてるほどのものではないと判断します。ただ、実名の人が何か言ってきたらもう少し丁寧に答えます。
森達也なんかそう言いそうだ。
 栃木県のサラリーマン殺しの犯人が出所してくるのに周辺住人は怯えている、という話から出ているのだから、すぐ分かるでしょう。森達也が実行したら教えてもらいたいものだ。
日米安保に賛成しているはずだが、だったら米軍基地の周りや、沖縄に住んではどうか。
 日米安保に賛成しているというより、憲法九条を改正して安保を双務的なものにすべきだと考えている。
>海外の死刑廃止国から日本にやってきた元殺人犯が隣に住むという仮定もしなければならないから、
 そんな奴にビザが降りるのか?
>ぜひとも小谷野君と論争してほしいものだ。
 宮崎氏は私と論争する気はないそうです。
>死刑反対論者は賛成論者よりも、脅迫を受けることが多いはずである。
 そりゃテレビに出た人の話でしょう。私は刑務所にいる奴から明らかに気の狂った手紙を貰ったことがあるよ。
 
 今回は正体不明君、長く書きすぎて切れ味が悪いね。

 (小谷野敦