もし日本に、死刑存置論者の禁煙ファシストというのがいたら、ディレンマに苦しんでいるに違いない。国連では、死刑廃止は世界の「すう勢」だと日本への不満を表明したと報道された。「趨勢」くらい書けよ新聞、であるが、もしその者が「世界の趨勢だからと言って従う必要はない」と言えば、禁煙もまた世界の趨勢であるから従えという理屈が破綻するからだ。これに引っかかりそうなのが橋下徹である。橋下は、禁煙化は世界の趨勢だと豪語しているが、なら橋下よ、死刑廃止も世界の趨勢であるから、光市殺害事件で死刑判決を免れようと努めた弁護団に対して謝罪せねばならなくなるだろう。どうする橋下、どうするファシスト
 そういえば亀井静香死刑廃止論者で、綿貫民輔は禁煙推進議員連盟会長である。ということは、国民新党は「世界の趨勢に従う党」ということになるね。

 私も知っているさる大学教授は、飛行機に乗れないそうである。西洋文学が専門なので意外に思っていた。ところが調べたら、彼は若い頃西洋に留学していることが分かった。そして彼は喫煙者である。恐らく、禁煙になったため飛行機に乗れなくなったのであろう。半分くらい私と同じである。同情する。

 『週刊朝日』の宮崎哲弥と川端某(誰?)の対談によると、小林よしのりが『SAPIO』で佐藤優を批判している件について、佐藤が小学館からの版権引き上げをちらつかせるなど、相変わらず実に卑怯なことをしているらしい。私は、佐藤の文庫本が出るたびに、軽蔑する人が増えていく。その解説を書いている者を自から軽蔑せざるをえないからだ。前回は川上弘美で、今回は恩田陸である。『現代』が休刊になるというので魚住昭が嘆いていたが、延々と佐藤の相手を務めているのだから、自業自得だよ魚住。天皇主義者佐藤の連載を支え続ける魚住に、麻生太郎が差別者だなどと言う資格はもうない。
 追記:『実話ナックルズRARE』には、佐藤のやり口が詳しく書いてあり、大江健三郎と同じだとあったが、そこに、『AERA』の大鹿記者や金光翔が佐藤の圧力で冷や飯を食わされている、とある。本当かどうか知らないが、続いて、しかし佐藤は、櫻井よしこ小谷野敦のような「有名な知識人」には反論せず無視する、とあり、なぜかというに佐藤はメディアの恐さをよく知っているからだというのだが、ちょっと論理がよく分からないのと、佐藤は小林よしのりとは既に奇妙な戦争を始めている。
 いや、単に佐藤が私や櫻井さんに反論しないのは、できないからだろう。小林の場合は、沖縄戦をめぐって勃発したもので、宮崎も「小林の認識には同意できない」と言っているくらいで、勝てないことはない。櫻井さんのはロシヤ情勢に関するものだから知らないが、私に関しては「共和制になるとファシズムになる」とか「三種の神器のどれが本物かは北畠親房が決めた」とかわけの分からない与太を飛ばしているのだから、勝てるわけがない。

 (小谷野敦