土岐村路

 書物を登録するのに、いちいちISBNを書く奴がいるが、あれはどういうつもりなのだろう。だいたい学者が書類に書かされるとかいうのを除いたら、本を注文するのにISBNで注文する奴なんていないだろう。

 昨日の新聞に、沼沢洽治先生と平野敬一先生の訃報が載っていた。沼沢先生には、英文科で英作文を教わった。ただ、井上靖の文章を英訳させる、という昔ながらの和文英訳で、あまり役にはたたなかった。その頃私はオルビーで卒論を書いていて、ちょうど上演された『ヴァージニア・ウルフなんか怖くない』を観に行ったら、パンフレットに沼沢先生が寄稿していた。それで、つい授業のあとで話しかけたが、『ヴァージニア・ウルフ…』以後のオルビーはあまりねえ、というような話で終った。息子が同期で国文科にいた。SFの翻訳もたくさんしたが、遂に自著は一冊も書かなかった。書けそうな雰囲気の先生だったが…。
 平野先生は、一年か二年生の時に、一般教養ゼミで「チャイルド・バラッドの世界」とかいうのを開講していて、好きだった女子と一緒に出たら「みなさんまさか勘違いしていないでしょうが、チャイルド・バラッドというのは、フランシス・チャイルドという人が集めた民謡集で、子供向けという意味ではありません」と言われて、実は私は子供向けだと思っていたので恥ずかしかった。そして次から出なくなった。