「リンゴの歌」は明るいか?

 戦争中から戦後への変遷を語る劇映画やドキュメンタリー番組では、判で捺したように「リンゴの歌」が流れる。そしてドキュメンタリーなら、その明るいメロディーが人々を勇気づけた、などと言われる。
 しかし、あれは明るい歌だろうか。私はあの曲の、長調の前奏が歌の直前で短調に転じるところがすごく好きなのだが、要するに歌自体は全部短調である。一般に、短調の曲は「明るい」ものではないし、この曲も、一般的に言って、「哀調を帯びて」と言うべきだし、サトウ・ハチローの歌詞が、戦争色と無縁で愛らしい、くらいは言えようが、曲自体「底抜けに明るい」(ある文章での表現)とは言えまい。曲の明るさということでいえば、「空の神兵」や「ラバウル航空隊」のような軍歌のほうが、よほど明るい。
 そろそろ、戦争にまつわる紋切り型の表現は、やめにしてほしいものだ。