タダほど高いものはない

 なんだかミクシィもトラブル続きであるが、岡本千鶴子事件の時、殺された娘が「会員制のネット掲示板の日記で」と報道されたときは、思わず失笑した。会員制ってほどのものか、ミクシィが。会員制ってのは、ちゃんとした社会的地位のある人しか入れないとか、会費を月五千円くらいとるとか、そういう時に使うものだ。
 ミクシィなんて、タダで使える。プレミアム会員だって月300円程度、高校生だって入れる会員制なんてのは、会員制の語の定義をし直さねばならんくらいだ。タダで人寄せしておいて、会員数ウン万人と謳って広告収入を得て株式上場って、これは典型的なバブルのやり口である。
 愚かきわまるのが、何か会員間でトラブルがあるとミクシィ事務局へ通報するやつだ。第一にミクシィ規約には「会員間のトラブルは会員間で解決してください」とある。だから何もしなくても規約違反ではないし、

 「どこの世界に、タダで参加している『会員』のために(ないしは300円程度の会費で)本気になって動く会社があるか」

 慈善団体じゃないんだから。そんなことは、中卒だろうが高卒だろうが、社会へ出たことのある大人なら誰でも知っていることである。これが呉智英先生のいう「庶民の世間知」で、大学へ行っていてもそういう世間知はあまり教えてくれないのだな。規約によれば「会員間のトラブル」でしかないものを「通報しましたが返事が来ません」などと言っているのは、親の監督が必要な子供。警察へ行ったってまず訊かれるのは「それでカネをとられたか」ということである。タダです、といえば誰も相手にしてはくれない。
 一人で複数のアカウントを持つことは禁じられている。それにしたって、「証明しろ」といわれたら証明はまずできまい。先生に言ったからといっていじめがなくならないことはたいていの高校生が知っているが、ミクシィでは削除してもらえると期待しているのだろう。まあ削除される者はいるが、すぐ戻ってくる。
 「渡る世間は鬼ばかり」というドラマを私は観たことがないが、そういうドラマがいくら人気があっても、ただの営利企業がタダで善意で動くなどと思っている若者がいるようでは、全然この格言は理解されていないということだ。ミクシィ事務局をマザー・テレサだとでも思っているのか。
 おっとまだ話があった。たとえばミクシィ上で、私とサシで討論したい、というやつがいるとする。私が、どうせギャラリーがあれこれ言うだろうから嫌だというと、そうはならないようにする、と相手は言う。しかしである。メッセージを使って「死ねよばか」などと言ってくる奴が出たらどうするのか。アクセスブロックは9人までである。500人から言ってきたらどうするのだ。