どちらが封印されているか

 大江健三郎の「セヴンティーン第二部 政治少年死す」は、『文学界』掲載当時、右翼の脅迫があったため単行本にも収録されていない幻の作品とされている。しかし今では鹿砦社の『スキャンダル大戦争2』に入っている。それ以前でも、大学図書館で『文学界』のバックナンバーを見れば見られた。
 むしろ、『婦人公論』に連載された大江の通俗恋愛小説『夜よゆるやかに歩め』のほうが、閲読は困難である。webcatで調べると、国内の大学図書館では四館しか所蔵していない。私はたまたま古本屋で見つけて500円くらいで買ったが(ロマンブックス版)、いま「日本の古本屋」で見ると35000円という高値がついている。まあ『婦人公論』連載時のものを見るなら、わりに所蔵図書館は多いけれど、概してどちらがアクセス困難かといえば、後者なのである。まあだからどうということはないのだけれど。
 私は岸本葉子さんの処女作『クリスタルはきらいよ』をずっと探しているのだが、いまだ入手できない。私が学生のころ、五月祭でご本人が売っていたのだから、買っておけば良かったと悔やまれる。そうすれば、私は岸本葉子が自分で本を売っていた時に出会った、とか自慢できたのに。