2023-03-01から1ヶ月間の記事一覧

プラックローズら「「社会正義」はいつも正しい」 書評 小谷野敦(読書人)

少し前に、『現代思想』(青土社)が「ポストモダン」を擁護的に特集した際、謳い文句に「アカデミズムの外で詭弁に使われ」とあるのを見て私は「中で」の間違いじゃないかと思った。しかし日本のポモ思想は、何やら現代版禅仏教みたいになり、おとなしい草…

「大江健三郎がいた日本」の私     小谷野敦(作家・比較文学者)

(時事通信配信) 大江健三郎氏が亡くなられた。かつて谷崎潤一郎が死んだ時、三島由紀夫は、「谷崎朝時代」が終わったと評したが、私には、その少し前から始まっていた「大江朝時代」が今終わったと言いたいところである。大江氏は、東大五月祭賞を受賞し、…

住井すゑ「橋のない川(一)」アマゾンレビュー

天皇制と差別 星5つ 住井すゑの生まれた奈良県を舞台に、誠太郎、孝二の二人の兄弟を主人公に「エッタ」と呼ばれ差別される人々を、天皇制との対比で描いていく。私は天皇制があるから差別があるのだといった非論理的な主張はしないが、人が生まれで差別さ…

三島由紀夫に同情する

私は三島由紀夫が嫌いだが、安岡章太郎の『僕の昭和史』を読んでいたら、思わず三島に同情してしまった。というのは68年ころか、三島が「自衛隊をいつまでも継子にしておいてはいけない」と言うと、反米らしい安岡が「そうですね、自衛隊がクーデタを起こし…

谷崎精二の娘婿

尾崎一雄の『あの日この日』の記述から、谷崎精二の長女・恭子と結婚したのが上山徹三という早大英文科卒の音楽評論家であることが分かった。つまり精二の教え子ということになるだろう。 上山敬三, かみやま、1911年4月14日-1976年9月27日岩手県出身。早稲…

架空の試験

もし私がミリオンセラーを出して金持ちの作家になり、秘書を雇うことになったら(ありえないが)、以下のような試験を課したいと思う。 ・以下は日本近代小説の登場人物である。これらの人物が登場する作品名を書け(複数の作品に登場する場合は複数書いてよ…

音楽には物語がある(51)ブーニンの今昔 「中央公論」三月号

スタニスラフ・ブーニンが、この夏、住居がある八ヶ岳の山麓と東京で、9年ぶりの演奏会を開いたというので、その様子を紹介したNHK/BSプレミアムの番組を観た(「天才ピアニスト・ブーニン 9年の空白を越えて」)。 9年というのは、主としてブーニンが「…

パオロ・マッツァリーノ「思考の憑きもの」アマゾンレビュー(掲載拒否)

あまりシャープな人ではない 星1つ 小谷野敦 この人は昔からいるが、イタリア人を装った日本人らしい。匿名で他人を批判したりするのは卑怯である。初めて読んでみたが、夫婦別姓について、反対論を批判する文章があった。私は夫婦別姓は、やりたければやっ…

中尾知代「戦争トラウマ記憶のオーラルヒストリー」アマゾンレビュー(掲載拒否)

もったいないことをした 星3つ 小谷野敦 かつて小菅信子の『戦後和解論』を、和解など成立していないと批判した著者の労作で、第二次大戦でビルマ戦線あたりで日本軍の捕虜となって虐待を受けた英国兵士らへの聞き取りで、そもそも帝国主義を始めたのが英国…

モーム「聖火」講談社文芸文庫・アマゾンレビュー

これはやまゆり園事件だよ 星1つ 小谷野敦 探偵小説仕立ての筋に、息子の妻の不貞への母の寛大さといったあたりで面白がってしまうが、これは最終的には嘱託殺人ですらない、「生きていてもしょうがないだろう」という忖度殺人、つまりやまゆり事件の肯定に…