伊藤亜紗「ヴァレリー 芸術と身体の哲学」 (講談社学術文庫) アマゾンレビュー

難解きわまりない
星3つ - 評価者: 小谷野敦、2021/05/19
ヴァレリーというのは分からない。加藤周一の『羊の歌』で一高生が横光利一に「「海辺の墓地」の風通しはいいですよ」と言うのからして分からない。この本を読んでもどんどん分からなくなる。だが博士論文なんだから三点はつけてある。「おわりに」として「ひとつの夢を本気で見ること」というのがあるが、ここでは「夢見る」という言葉がキーワードになっている。しかしこれはまさか寝ている最中に見る「夢」のことではないのだろう。ヴァレリー自身も「夢見る」という言葉を使っている。著者も、解説の細馬宏通も、分かり切った語のように使っている「夢見る」という言葉の意味が私には分からない。日常的にも、寝ている時に見る夢ではなく「夢はありますか」などという質問があると困惑してしまう。それは「願望」とかとは違うのか。「本気で夢見る」と著者は言うが、その意味が分からない。そういう感じに全体が分からない。