三田文学新人賞受賞作である岡本英敏(1967− )「モダニストの矜持‐勝本清一郎論」(『三田文学』2010年春)を読んでみたのだが、小林秀雄‐柄谷‐糸圭といった風に受け継がれたアクロバティックな文章が実にいかん。その上日本語に間違いもあって「藤村を私淑する」とか、勝本が精力的に評論を執筆するのを「雨後の筍のごとき勢い」とするとか、どうもいかん。内容的にも、形而上的議論に過ぎるし、勝本清一郎はそれほど重要な文学者ではあるまい。
ただ若いころの勝本の、永井荷風から藤間静枝を譲られ、次は徳田秋声から山田順子を押しつけられ、といった経歴が奇抜なので、私は勝本の伝記を書こうかと思ったことがあった。しかしそれなら勝本のものをほぼ全部読んでいる山田博光が書くべきだろうし、岡本が書いてもよい。私は勝本が、藤間静枝との生活を描いた小説三篇を読んだが、これはとうてい単行本にして出せないほどの出来であった。