宮澤賢治との和解

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銀河鉄道の父」という映画(2022)を観た。原作は門井慶喜の同名の直木賞受賞作で、宮澤賢治の生涯を父政次郎の視点から描いたもので、私は政次郎が死ぬまでが書いてあるのかと思っていたから、原作には不満が残ったが、映画は良かった。特に妹のトシを演じた森七菜が、美人でない分リアリティがあってよかった。

 ところで宮澤賢治といえば、長いこと私は批判的、ないしバカにしてきた。もちろん、吉田司の『宮澤賢治殺人事件』(1997)と、荒川洋治の『坑夫トッチルは電気を灯けた」(1994)の影響で、前者は『批評空間』で柄谷行人が吉田を呼んでさんざん賢治をバカにしていたから影響も受けたし、あとで『現代文学論争』にも書いた。

 もともと小中学校は、宮沢賢治教に染まっていたようなところがあり、大池唯雄が書いた伝記も教科書に載っていたし、とにかく有名で、高校生の時、日本の文学者で誰が一番偉いかトーナメント方式でやってみたら、賢治が一位になったということもあった。大学では児童文学を読む会にいたが、理系で、賢治崇拝者ともいうべき先輩もいたし、賢治は頭が弱いんだと思っていたなどと言う先輩もいた。

 あとになると、菅原克也さんが、僕も賢治は苦手だけど、そう言ったら今橋(映子)さんが「なんですって」(キリッ)となって怖かったとか、私の『現代文学論争』を読んだ稲賀繁美さんが、いかに宮沢賢治ほどイメジャリーの豊かな詩人はいない、いずれちゃんとやりたいと言ってきたり、もとから賢治教的な千葉一幹みたいな人もいたりした。しかし私にとって一番印象が悪かったのは、井上ひさしが賢治教の人だったことだろう。

 しかしまあ25年くらいたって、冷静に考えたら、まあいい文学者だろうね。ただし「グスコーブドリの伝記」みたいな自己犠牲的なところとか宗教的なところは苦手だけどね。まあちょっと柄谷のムーブメントに乗ったのは軽薄だったかもしれないが、若い男がシニシズムに走るのはしょうがないよねと。

小谷野敦

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