山田稔の「コーマルタン界隈」

 山田稔(1930- )は、フランス文学者の大学教授で、火野葦平とは別の「糞尿譚ーウィタ・フンニョリアス」などを書いた作家で、93歳でまだ存命のはずである。

 1981年に連作短編集『コーマルタン界隈』で芸術選奨文部大臣賞をとっているので、読んでみた。1960年代はじめにフランスへ留学した経験を描いて、1980年から81年まで『文藝』に連作として載せたものである。主人公はフランス語が達者な日本人で、住んでいる下宿の主人はポルノ映画館を経営しており、映画館は隣の通りにあると思っていたら、裏側を抜けるとすぐ隣にあることがわかったりする。私の後輩二人とあと一人の日本人がモンペリエの、ポルノ映画館の二階の下宿に同宿して留学していたことがあった。

 じわっとして割といい作品だったが、どうも最後にフランス人の女が出てくる「エヴァ」だけ、キザな感じがした。https://m.media-amazon.com/images/I/41YKQCT+nQL._SL75_.jpg