小田実と「細雪」

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小田実に「現代史」という、1500枚くらいある長編小説があって、それが谷崎の「細雪」を下敷きにしているということを最近知った。これは題名からはちょっと想像がつかない。それで図書館から「小田実全仕事」の4巻にまとめて入っているのを借りてきて斜め読みしたのだが、1960年代の大阪の大都造船の社長の島内一家とその四人姉妹の動きが華やかに描かれていて、なるほどこれは「細雪」だ。やはり「細雪」を下敷きにしているといわれながら、食事のシーンばかりの金井美恵子「恋愛太平記」より面白そうだが、これは時間をかけないとちゃんとは読めないし、その価値があるかどうかちょっと微妙だ。

 もちろん小田実だから、「細雪」の保守的で古典的なところには批判的で、ベトナム戦争とか天皇制の問題とかがさりげなく出てくるが、それも押しつけがましさは感じなかった。しかし小田実のように、たくさん小説を書いているのにちゃんと論じられていない作家も珍しいのではなかろうか。文学賞も晩年の川端賞くらいしか知らないし。

小谷野敦