音楽には物語がある(52)サントラ盤の謎 「中央公論」四月号

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 岡田利規の戯曲「三月の5日間」は有名だが、何といっても「ミッフィーちゃん」と自称するいけてない女が登場するところが白眉で、そこでミッフィーちゃんは知り合った男とたわいない会話を交わすのだが、そこで、映画のサントラ盤って買っても一回聴いてそれっきりになったりしますよね、と言っていたのだが、確かに映画のサントラ盤というのは、LPの昔から、CDになった今でもあるが、ちょっと不思議な存在である。   

 冨田勲とか久石譲とかいった作曲家が音楽を担当していて名曲が多いという映画なら分かるし、ミュージカル映画なら分かるが、別にそうでもない映画のサントラ盤などというのは、いったい誰が買うのだろう。

 昔は、ビデオデッキというものがなく、個人宅で映画を手軽に観ることができなかった。そのため、せめてサントラ盤でも買って、音楽だけでも映画の感動を味わおうというのが、サントラ盤の起源ではなかったか。「風と共に去りぬ」とか「アラビアのロレンス」のサントラ盤なんか、さぞ売れただろう。

 私の若いころ「イメージアルバム」というのがあった。山岸涼子聖徳太子をゲイとして描いた異色漫画『日出処の天子』は、アニメ化の話もあったが、山岸が、誰かに吹き込まれて、日本のアニメはリミテッド・アニメという不完全なものだからというので断ってしまった。だからこれは、ただ漫画原作だけから作曲してLPにした珍物で、私も買いはしたが一度だけ聴いてしばらく放っておいたが、最近売ってしまった。ほかにも名香智子の社交ダンスを描いた『PARTNER』のイメージアルバムというのもあった。

 しかし、私が買ってくりかえし聴いたものといえば、「ウルトラセブン」(冬木透)「ゴジラ」シリーズ(伊福部昭)など特撮怪獣ものとか「未来少年コナン」(池辺晋一郎)「伝説巨神イデオン」(すぎやまこういち)「キャンディ💛キャンディ」(渡辺岳夫)「赤毛のアン」(三善晃毛利蔵人)「新世紀エヴァンゲリオン」(鷺巣詩郎)などのテレビの連続アニメのサントラ盤か、映画ならミュージカルの「メリー・ポピンズ」や、久石譲の音楽がすばらしい「風の谷のナウシカ」くらいで、まあ私の嗜好が特撮・アニメだということは措いて、単発の映画でサントラ盤が繰り返し聴くに足るということはあまりないんじゃないかと思う。映画音楽のほうで巨匠とされた佐藤勝が音楽を担当したものでも、サントラ盤を聴いて存外つまらなかった記憶がある。

 何しろLPでいえば、表裏に15、6の曲が入るわけだが、一本の映画で、それほどに名曲や繰り返し聴くに足る曲があるものではない。テレビの連続番組なら、いくつもの曲が入るから、優れた作曲家が力を入れたものなら、くり返し聴くに足るものができるのだ。調べると、洋画のサントラ盤のベストセラーというのも出てはくる。

 そして実際、サントラ盤があってもいいくらい名曲ぞろいなのにサントラ盤が出ていないドラマというのはあって、私が中学生のころの大河ドラマ風と雲と虹と」(山本直純、1976)と「花神」(林光、1977)はそのようなドラマだった。もっとも当時私は中学生で、これらの大河は再放送をテレビチューナーつきのラジカセで聴いて音楽を録音するくらいだったから、偏りはあるかもしれないが、それ以外の大河ドラマではこれほど音楽に感心はしなかった。

 「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌(宮川泰)が名曲として知られるように、ヒットした映画やアニメの音楽はしばしば名曲で、こういう「劇伴」音楽についてもまとめてくれる人はいないかと思う。