児童文化評論家の赤木かん子に手紙を書いたのは、大学一年の時だったような気がする。それは赤木の「ヤングアダルト」というジャンルをもっと広げるべきだという論旨の文章に反対したもので、私は、高校生くらいになったら、別に大人が読むものを普通に読めばいいので、ヤングアダルトなどという細かい年齢による読書の区分けをしなくてもいいだろうと主張したのである。多分掲載誌の出版社宛てに出したのだろうが、返事は来なかった。当人が読んだかどうかも知らない。
その後の歴史は、現実には私の敗北で、公共図書館や大きな書店にはしばしば「ヤングアダルトコーナー」が設けられている。これはある意味で出版戦略の勝利であったかもしれない。だが私の、高校生になったら大人向けのものでも何でも読めばいいという考えは変わっていない。
私は図書館で、時々絵本を借りるが、そうすると図書館員から「お子さんがいらっしゃるんですか」などと訊かれたこともあった。いや私が読むんだが、世間には、子供向けのものは大人が読むのはおかしいという考え方があるようだ。私は大学時代、「児童文学を読む会」にいたくらいだからそういう考え方をまったくしない。赤木の「ヤングアダルト」という思想(それはアメリカあたりから入ってきたものだろうが)には、それと似た、年齢で読むものを分ける一種の差別思想が潜んでいる気がして、私は嫌なのである。
(小谷野敦)