やめろ、女

歌舞伎を観に行って、女の人がかけ声をかけるということも、昔はあった。前の團十郎のひいきらしく「成田屋!」とやっている人がいた。最近は聞かないが単に私が生の歌舞伎へめったに行かなくなったからかもしれない。

 しかし京須偕充『芝居と寄席と』には、恐ろしいことが書いてあった。1968年、前の雀右衛門の襲名披露を国立劇場でやった時、雀右衛門のひいきらしく「京屋!」とかけ声をかける女の人がいて、京須もたびたび遭遇したというのだが、その時、「やめろ、女」という酔漢のような声が続き、三度くらいそれがあったが、係員も止めることはなく、女の人は黙ってしまい、見得が決まってかけ声が輻輳した時、「どうした、女」という声も出ていたという。京須は最後に「私は少しも腹が立たなかった」と書いていて、私は京須という人が嫌いになった。

 確かに、女の歌舞伎のかけ声はやめたほうがいい。だが、赤の他人に「やめろ、女」などと言うのは無礼である。私なら腹を立てる。