岸田理生の恐怖

 岸田理生という、2003年に57歳で死んだ女性の劇作家がいる。この時、岸田の思い出を書いた人がいて、それは男の劇作家か俳優だったと思うのだが、十数年前に演劇フェスティバルみたいなのがあり、終わってから、みなで雑魚寝しようという提案が出たら、岸田理生が「川村ツヨシもいるし」と言って怖がって、「ツヨシじゃなくてタケシ」と言ったとかいう話で、そのエッセイの書き手は、岸田のことを、やっぱりこういうところで普通じゃないところがあるんだなあと書いていた。

 いや、雑魚寝するといったら女の人は普通怖がるだろうと当時私は思ったので、不思議なことを書く人だと思ったのだが、考えたら、こういうところは普通の女の人なんだなあ、と書くと何だか変なような気がして逆に書いてしまったのだろう。

 そして20年前の演劇界というのは、それで岸田理生が強姦されてもおかしくない雰囲気があったような気はするのである。