文芸評論の真実

私は、新潮社とかの大手文藝出版社から文藝評論の本を出してもらったことがない。といえば『片思いの発見』があるじゃないかと言われるかもしれないが、あれは文藝評論扱いではないのだ。確かにハードカヴァーだが、『新潮』に載せたものではない。その後『文學界』で連載したのも、文藝春秋では本にならなかった。

 真正の文芸評論というのは、福田和也の『日本の家郷』みたいな、採算を度外視して『新潮』に載せたのがハードカヴァーで地味な装丁で出るのを言うのである。渡辺直己なら『谷崎潤一郎 擬態の誘惑』(1992)と『日本小説技術史』(2012)が新潮社から出ている。柄谷行人は新潮社から出たことはないが、講談社から白い表紙のをたくさん出しているし、『群像』連載である。三浦雅士も『群像』連載を分厚いので講談社から出している。

 最近では文芸評論はあまり出なくなったが、安藤礼二講談社からよく出しているし、新潮社では大澤信亮が特別待遇文藝評論家である。福嶋亮大が最近新潮社から出したので「おっ」と思った。