『柳美里不幸全記録』は、表紙がヌード写真だというので騒ぐ人がいるが、『新潮45』に「交換日記」として連載された優れた私小説である。その最後のほう、2005年夏ごろに、新潮社出版部と柳との関係の断絶らしいものが描かれている。「決定」を知らせたのは『新潮』編集長の矢野優だが、内容は茫漠としか分からない。ただ、今後柳の単行本を出していく気がない、ということらしく、矢野は関知していないようである。だからか、その後柳は、小説家としてのデビューを飾った『新潮』に、本格的に小説を書いたことはないし、2007年を最後に単行本も出なくなっている。その時柳は河出書房の『文藝』編集長に手紙を書いて、その後『文藝』で小説を書かせてもらうようになった。今年になって『群像』が西村賢太の出禁を止め、60年ぶり初めて石原慎太郎を登場させたのと軌を一にして柳も『群像』に書くようになった。
まあかくいう私は『新潮』にも『群像』にも一文字も書かせてもらえたことはないのであるが。
(小谷野敦)