『批評空間』の共同討議で浅田彰あたりがよく「くだらない(あるいは、つまらない)話だけど」と前置きして語っていたのは、難しくて(ないしはインチキで)よく分からない本筋とは別の、ゴシップ的な話題だったように思う。まあたとえば、中上健次埴谷雄高に脅迫電話をかけたといった類である。
 こういう話の前に「くだらない話だけど」とつける心理は、私はこんなことに興味はありませんよという言い訳である。それなら言わなければいいので、言いたいのに「くだらない」と言わざるを得ないところに、まことに不自由なものがあるのである。
 結局、ドゥルーズ=ガタリのほうがよっぽどくだらなかったわけだが、「蛍」の巻で光源氏が言うように、「くだらない」とされるゴシップのほうにこそ、人間の真実があるわけである。それにしても浅田って『源氏物語』通読したことあるんだろうか。