ダジャレの翻訳

 勝浦吉雄訳の『マーク・トウェイン自伝』を読んでいたら、その第十二章で、子供の頃のミンストレル・ショーの思い出が書いてあった。そこで滑稽話として、船で漂流した話がなされ、「何で生きてたんだい?」と質問されると、「玉子で生きてたんでさあ」と答え、それに対して「こりゃ玉子(たまげ)った!」と言うのが観客の笑いをとるというのだ。
 これは原文は何なのかと思い、渡辺利雄の訳を見たらまったく同じだった。勝浦訳の末尾には、渡辺訳を大いに参考にしたとあるから、その辺も含めてなのだろ(渡辺訳は抄訳)。
 原文は何なのかと思い、マーク・トウェインなら著作権は切れているからネット上にあるだろうと思って検索したら、確かにテクストはあるのだが、その個所だけなぜか省略されている。仕方ないので原書を買ったら、届いたのは分厚いテキスト集の第一巻だった。この自伝は、最晩年に至るまで断片的に書かれていて、のちに数人が編纂しており、渡辺、勝浦が用いたのはチャールズ・ネイダーの編纂だった。それでも、その第一巻を探したが見つからず、結局またネイダー編纂のものを買った。すると、その個所は、
「どうやって卵を手に入れてたんだい?」
「船長がlaid to していたのさ」
 というもので、lay to は、卵を産むという意味と、船を風上に向けて停止する、という意味があった。