中沢新一の軽薄

 そういえば私は一度だけ、中沢新一の講演を聴いたことがある。例の「中沢騒動」から少したって、駒場で行われたのだが、小林康夫が呼んだらしい。
 まあ中沢の講演の軽薄な感じは知られているが、その時も、
 「アジアなんてのはもう終わったんです。あれは『全東洋街道』を書いて終わるものなんです」
 とか藤原新也の写真集をおちょくって、聴衆の受けを狙ったのだが反応がないので、舌を出してみせ、それで少し聴衆が(いささかの憐れみをこめて)笑った。
 あるいは、
 「キリスト教ユダヤ教を悪くしたんです」
 などと言ってから、前のほうの席に、キリスト教関係の女性らしい人がいて、その人に、あっ、いましたね、すみませんでした、といったジェスチャーをしたりしていた。あれは竹下節子さんだったのだろうか。
 まあ当時は私も、中沢が偉いと信じていたが、いくらかこの講演で、軽薄な人だという印象を持った。
 それから三年ほどして、四方田犬彦が、東大比較の春の合宿に講演に来たが、私は行かなかった。四方田は講演のあと、そのころ中沢もやっていた某民俗学者の研究をしていた某君に、「中沢の新ちゃんをやっつけちゃってよ」などと言っていたそうだが、某君は四方田のことを「軽薄な人だ」と言っていた。

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こないだ堀内正美大相撲中継のゲストに出て好角家ぶりを発揮したのだが、やくみつるがそれを漫画に描いて、堀内、やく、デーモン小暮桐蔭学園高校の先輩後輩だから、堀内の土俵入りをやくと小暮の太刀持ち露払いでなどとしていた。名門高校出身者はいいなあ。私の出身高校で三人そろえるとしたら、窪島誠一郎飯田泰之になるのだろうか。  

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講談社学術文庫長尾龍一法哲学入門』は、ところどころ意味不明な一字下げがある。これはもしかしたら元本で、挿話的に書かれていたのを、不適切に処理した結果かもしれない。その中に、41pで、優れた哲学は狂気と紙一重だとした箇所で、私の考えでは東大からノーベル賞が出ないのは、助教授選考の際に、「人格円満」などと付け加えるからで、「ルソーのように被害妄想気味で組織には向かない人物です」と紹介されるような人が受け入れられたら、東大からもノーベル賞受賞者が出るであろうという話を人にしたら、「東大からもノーベル賞が出ましたよ」「誰だい」「佐藤栄作
 というので、佐藤栄作を皮肉ったつもりなのだろうが、これの元本は1982年で、佐藤の受賞は1974年だが、それより前に川端康成江崎玲於奈が受賞しているのだから、なんだか白けてしまう面白くもないジョークである。