落ち行く人

 『雄辯』1918年4月号に出た久米正雄作「落ち行く人」は、菊池寛の代作である。一高の寮生活が描かれていて、杉野という名で久米も出てくるが、主人公は相馬秀夫といい、父が謹厳なキリスト教徒で秀夫自身もそう、眉目秀麗な美男子だが、周囲の山岡とか杉野といった悪友に唆されて、酒と女の味を覚えて堕落してゆくという話だ。
これは明らかに佐野文夫がモデルで、のち菊池は佐野と同性愛関係になるが佐野のほうはさほどでもなく、倉田百三の妹とのデートに他人のマントを質入れして、菊池がその罪をかぶって一高を退学になるといういわくつきの人物である。のち佐野も不行跡のため東大を退学になって郷里へ帰るが、再度上京した佐野と菊池がばったり会ったのを描いた「青木の出京」が出たのは同年11月である。そんな目に遭っていながら菊池はなお佐野に未練があったというが、「落ち行く人」は、佐野が悪いのではなくて周囲の自分らが悪いのだという、佐野弁護の作になっていて、菊池研究には欠かせない文献である。片山宏行さんはこれ見たのかな。
(追記・菊池・久米ともに著作権切れなのでPDFにしておきました)
 
http://homepage2.nifty.com/akoyano/ochuyuku_hito.pdf

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http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20120404-OYT8T00458.htm?from=popin
「(旧姓・船田)」は間違い。斎藤竜太郎が船田竜太郎になった。

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著書訂正
『<男の恋>の文学史
p.62 後ろから二行目
 「男が女を迷わせても女の罪にはならず」→「男の罪にはならず」