私はれっきとした天皇制廃止論者であるが、それは別にしても、年次を平成で書くのはやめてほしいといつも思う。文章を読んでいて、平成五年とか書かれるたびに、1993年、と西暦に換算するのである。丸谷才一先生だって、元号は廃止すべきだと言っている。戦後、漢字が日本の文化の発達を妨げているとして、漢字制限論から、ローマ字化論、フランス語公用語化論などまで出た。フランス語化は志賀直哉が一時言ったが、川端康成はずっとローマ字化論者だった。
しかしそれはいかに何でも無茶であると思うが、元号というのはまったく文化のなめらかな進展を阻害するもので、まあ昭和なら、45年くらいまでは、日本人の中にイメージがあるし、たまたま敗戦が昭和20年であることから都合がよくもある。しかし、それから後はだんだん無意味かつ不適切になってくる。80年代とか90年代とかゼロ年代とか言うが、平成十年代は、とか言う人はいないだろう。まあ二年しかずれていないからいいといえばいいが、ああこれは「平成」で書かれていると思うともうそれだけでけっこう嫌な気分になるものである。
（小谷野敦）
