泉鏡花文学賞が変

 たいてい泉鏡花賞は十月の半ばから20日より前に決まるのだが、今年は妙に遅かった。
 ついこないだ、誰かが、文学賞の中で信頼できるのは鏡花賞、と言ったのに賛同したところだが、どうもこの数年、変である。瀬戸内寂聴である。文化勲章をとってから一般文学賞をとるなんて前代未聞、とツイッターで書いたのだが、考えてみたら谷崎は『瘋癲老人日記』で毎日藝術賞、川端は『眠れる美女』で毎日出版文化賞を、里見とんも『五代の民』で読売文学賞をとっている。ただ谷崎や川端の文化勲章は今みたいに高齢じゃなく60代での授与だ。小林秀雄文化勲章のあと『本居宣長』で日本文学大賞だ。
 『五代の民』は随筆集で、これはちょっと功労賞っぽい。寂聴は若いころ、三十年間何の賞ももらえなかった不遇の時期があり(ただ売れてはいた)、その後どんどん貰うようになったので、いい作品(特に伝記小説)と各賞受賞作とがずれている。
 鏡花賞が良かったのは、どちらかというと他の賞が貰えずにいてしかし頑張っている作家に与えられてきたからで、平林たい子文学賞が元来不遇な作家に与えられる賞だったので、それを補完していたともいえる。だから歴代受賞者には、芥川直木賞を、その後とった人はいるけれど、受賞時点でとっていない人が多かった。97年までは。98年から2004年までは、どういうわけかAN賞受賞者がとるようになり、その後なんか迷走していて、千早茜のデビュー作にあげたかと思うと、横尾忠則とか篠田正浩とか、本業のほうで十分評価されている人にあげてきた上で、今回である。まあ、AN賞は寂聴も夢枕もとっていないのだが、不遇ってことはない。
 まあ鏡花には藝者ものもあるのだが、幻想的作風のもの、ということになっていて、それならいろいろと、そういう作風で賞に恵まれない作家というのがいるのだから、そういう人に与えてこその鏡花賞だと思うのだがね・・・。