福田千鶴先生はかねて尊敬する歴史学者だが、『江の生涯』(中公新書)はどうせ大河ドラマ便乗本だろうと思っていたら、配役宝典ののよりんさんが、なかなか刺激的な内容だというので読んでみたが、これは凄い名著であると思った。2010年度の小谷野賞って、そりゃ私が勝手に設けているだけなのだが、まだ決まっていなかったのでこれに授与することにする。サントリー学芸賞ほか三つくらい賞をとってもいいと思う。
刺激的というのは、浅井江について、佐治一成との婚姻は約束だけで実際には輿入れしていなかったとか、かねて江の実子とされていた徳川家光、東福門院和子は江の子ではないと推理した点だが、そうした点、あるいは読物としてのまとまりの良さに加えて、一次史料に依拠してのいつもの福田節とも言うべき緻密な書きぶりが素晴らしい。しかも私同様、ちゃんと女性名は「浅井江」「浅井茶々」と書いておられるのも嬉しい。中村孝也のような昔の学者に「氏」をつけているのも、ほかの人なら気になるのだが福田先生だと気にならない、というのはひいきが過ぎるか。
日本における日本史学者の優秀な人の書くものを読むといつも、文学とか社会学とかの一部がいかに恣意的で感想文的でイデオロギー的であるかを痛感し、恥ずかしくもなるのだが、歴史学だって、権門体制論か東国王権論かなどといった空理空論のもてあそびをしているしイデオロギー的なものはある。
福田著はそういうものとは無縁である上に、歴史学研究入門的にも読める。それでいて、無味乾燥にも陥らず、読んで面白く、飛ばし読みが出来ない。武家社会における人質についての考え方とか、福田氏の持論である妻妾制度についての細かな考察など、読みどころ十分である。最後に、とりあえずみたいに、江のひととなりについて纏めているが、それも実証史学の矩を超えていない。
まあ、世間的に有名な歴史学者が結構いい加減だということもあるのだが、近ごろの名著と称してさしつかえない。
- 作者: 福田千鶴
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/11
- メディア: 単行本
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そういえば湊かなえ原作の映画『告白』をやっと観たが、大学教員は昼間はずっと研究室にいると思っている(誰が?)ところが笑える。