ファンクラブ

 私が鮫島有美子ファンクラブに入っていたことは書いたが、実は仲道郁代ファンクラブにも、一期分だけ参加していた。そして仲道さんを囲む会にも出たことがある。まあ若い男が三分の一、ピアノを習っている少女とその母が三分の一、高齢者三分の一という感じだったか。
 まあ全員着席の会で40人くらいだったか、私などにとっては、当然ながら、仲道さんを間近に見るという以上の意味はなく、中途半端なものだったのは言うまでもない。
 さて会が終り、出口で仲道さんが見送る中三々五々店を出て、出口で握手してもらう趣向だったか。私はそういう時のいつもの例で、あとまで席に残っていたが、近くに私くらい、30代の男が二人、やはり残っていて、二人は知り合いではないのだが、何となく会話を始めて、握手だけという決まりなのだがサインを貰おうとしていて、どうでしょう貰えるでしょうかなどと話していた。片方が「ああ、田部京子の会でも貰ったことあるから大丈夫でしょう」と言ったのを耳にして、気分が悪くなった。様子を見るに、別段それを売ってどうにかする(会費のほうが高くつくだろう)というわけではないから、いわば「美人クラシック演奏家オタク」みたいなものだろう、と思われた。
 私は軽い後悔を抱いて帰途につき、ファンクラブもやめてしまったが、私が「美人クラシック演奏家」というもののあり方にある不快感を抱くようになったのは、それ以来である。

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サンデー毎日』で私の肩書が「学術博士」になっているのには驚いた。肩書などどうでもいいのだが、私が希望したと思われると何となくあれなので言っておくと、これはまったく相談なし、たぶん渡した名刺で名前の上に書いてあったから深い考えなしに使ったのだろう。

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谷崎賞、島田かと思っていたのだが該当作なし。
 私がときどき、ぱっとしない作家に触れるのは、同気相求めてのことである。学者でも、そういえば昔話題になったな、という人がいて、澤野雅樹なんかそうだがこれは大学の教授である。中公新書に『音楽の現代がはじまった時』を持ち込んだ浅井香織なんてどうしているかまるで不明。
 (小谷野敦