野口冨士男の『徳田秋声伝』といえば名著のほまれ高い(にしては文庫化とかされないが)。その最後の、秋声の葬儀のところで、近松秋江の娘の徳田道子が嗚咽していた、とあるのを、亀井麻美さんが、道子ではなく姉の百合子だと訂正された。確かに徳田道子『光陰 亡父近松秋江断想』に、姉百合子だけが葬儀に行って、帰ってきて、泣いちゃったと言っていたとある。

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私が大学三年になった時だったか、「児童文学を読む会」の最初の読書会が開かれて、新一年生が何人か参加したのだが、私より上の人たちはわりあいリア充がいて酒飲みだったのが、私の世代とその下はそうでもなかった。で、終わって、どこか店でも行くかということになり、まあ酒はいいだろうということで喫茶店に行ったのだが、一人の新一年生が、酒が呑みたいと執拗に主張したのを受け流したら、「なぜ酒呑まないんですか。なんかあったんですか」と私に食い下がったことがあった。
 彼はそれからほどなく、五月祭の時に出した同人誌に、サークルを批判する文章を載せて、いなくなってしまった。もちろんそれは酒の話ではないのだが、考えてみたらあの時彼は未成年だったんだよなあ。そういう時代でした。

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 『別冊宝島 保守・反動思想家に学ぶ本』(1985)の著者(談話者)紹介欄で、左翼体験のあるなしを書くことになっていて、三田誠広は「まったくなし」と書いた。私はそれを信じて、へえじゃあ『僕って何』って私小説のように見えるけれど想像で書いたんだ、と思っていた。だがその後、これが嘘であることが分かった。なんで嘘をつくのかねえ。