ディコンストラクション

 昔聞いた話である。さる田舎の建築屋が家を建てた。施工主は細心な人で、自分で費用を細かく計算して支払った。建築屋はいつもどんぶり勘定で(多めに)請求していたので、そのためにつぶれてしまったという。どんぶりというのは食べる丼ではない。腹がけのどんぶりという、ウェストポーチの古いやつで、昔の商人はここからじゃらじゃらと銭を出した。いい加減に計算することをどんぶり勘定という。
 学問や評論にもそういうところがある。どんぶり勘定で書いているのを、精密に調査すると崩れてしまう。それをディコンストラクションと呼んでいる。つまりその田舎の土建屋脱構築されてしまったのだ。
 (小谷野敦