杉山武子の不満

 しんのすけ君がこんな本を紹介している。
http://d.hatena.ne.jp/zoe1/20090427

 杉山武子(1949− )はこれ一冊しか著書はないが、初版は『夢とうつせみ−一葉樋口夏子の肖像』(1999)で、これはそれの改題新版である。

http://www5a.biglobe.ne.jp/~takeko/
 
 しかし、男性作家が童貞かどうか問題にされないのに、というのは筋違いの議論である。というのは、一葉は24歳で未婚のまま死んだから問題にされるのであり、99年よりあとだが押野武志『童貞としての宮澤賢治』も出ている。むろん、笙野頼子は処女かどうか、という疑問もありうるが、まだ生きているし怖いからみな蔭(とか2ちゃんねる)で言っているだけである。久坂葉子も若くして自殺したが、富士正晴の伝によって、とうてい処女ではなかったろうとされている。
 その伝でいえば、23歳で死んだ滝廉太郎が童貞だったかどうかというのはなかなか気になるところではある。

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辻一郎(1933− )の「谷崎潤一郎阪神間 そして三人の妻」(川本皓嗣・松村昌家編『阪神間文化』思文閣出版、2008)を読んだ。私の知らなかった資料三点を確認。しかしこの辻さんは放送局勤務の人だが、谷崎の三人の妻全員に会ったことがあるというから驚きだ。仕事がら、佐藤春夫夫人と谷崎松子に会ったのはともかく、古川丁未子は辻氏の母君が同じ学校で同じ寄宿舎にいたという。

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『里見弓享伝』285p、「薩摩閥の桂太郎」は「長州閥」の間違い。
299p「古沢皓」→「古沢晧(あきら)」、「広島」→「八丈島
322p、しかし「無条件降伏」は日本軍のことであって日本国は無条件降伏していない。
354p、後ろから三行「大船から」→「逗子から」
408p「祇園上七軒」→「上七軒
459p、福田蘭童の掲載誌は『小説新潮

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1990年ころ、別冊宝島現代文学で遊ぶ本』に呉智英さんが「石川淳はほんとうにもおもしろい」という文章を書いた。石川淳は、漢語、フランス語もできるからすごいと言われているが、小説はそんなにおもしろくないのではないか、と言われているが、という二段構えの文章で、石川の何とかいう短編を紹介して、面白い、と結論づけるのだ。
 しかし、呉さんから伝授された「書評読みのコツ」で行くと、この文章、どうしても本気で石川淳がおもしろいと思っているとは思えなかったし、いくらつまらない作家だって、一つくらい面白い短編はあるだろう、と思ったから、その短編も読んでいない。
 もし、いや、石川淳は本当に面白い、これこれを読め、という人がいたら、教えてほしい。

小谷野敦