誰も語らない佐藤亜有子の新刊

 もう13年も前に『ボディ・レンタル』で文藝賞を受賞し、東大仏文科卒のSM純文学ということで話題になった佐藤亜有子が、昨年、五年ぶりの新刊『花々の墓標』を上梓した。しかし世間はまったくの黙殺である。
 「オートフィクション」などと書かれているが、事実上、父親から性的虐待を受けていたことと、精神を病んでいることを描いたもので、解説が斎藤学なので、例のジュディス・ハーマン式「贋の記憶」ではないかと疑いつつ読んだが、私の判断は事実説に傾いている(説も何も、誰も何も言っていない。新聞記事を検索したがまったくヒットしない)。
 恐らく2002年頃書いて、河出書房では刊行しなかったのだろうと斉藤は言っており、精神医学系の出版社から出ている。しかし、誰も何も言わないのは、父親がまだ生きているからだろうか。
 実は私は、作中にも出てくる、父親からさらにひどい性的虐待を受けたとされている佐藤の姉なる人から、ミクシィ内でメールをもらったことがある。ただ、相手は名を出さず、妹は東大を出て作家をしています、とあったので、ああ佐藤亜有子さんですねと返事をしたら、それきりになった。ハーマン説が批判されたからといって、すべてがファンタジーだということにはならないわけで、かといってこれを明らかにして佐藤が救われるわけでもない。それにしても、黙殺するのでは事なかれ主義でしかあるまいと思う。

花々の墓標

花々の墓標

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教育テレビで辻村寿三郎さんが出ていた。私は『新八犬伝』をやっていた頃、ギャラリー八重洲だったかで辻村さんの人形展があって、母に連れられて行って、展示されている人形の顔を模写していたのを辻村さんが覗き込んでいたような記憶があるのだが、捏造された記憶かもしれん。
 『真田十勇士』の悪役・徳川家康の顔は昭和天皇に似ていたが、辻村さんは前進座にいたから、やっぱり「左翼」なんだろうなあ。

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井上章一編『性欲の文化史2』にホステス論を寄稿している松田さおりさんは宇都宮共和大学専任講師だが、大学のサイトから行ったらすごい美人なので、研究内容ではなく美貌で井上さんに呼ばれたのではないかと邪推してしまった。いや冗談ですが。

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駒場東大の矢内原門のところにあった、幽霊伝説のありそうなトイレが取り壊されていてショックを受けた。こうして一つ一つ、古き良き駒場は終っていくのだなあ。