カド番大関が強いわけ

 琴欧洲が初優勝。カド番での優勝である。知らない人のために解説すると、大関は二場所連続で負け越すと関脇へ落ちる。だから負け越した次の場所を「カド番」という。角番と書き、囲碁将棋から来た言葉のようだ。なお横綱は、下へ落ちるということはない。だから横綱が弱い時は、引退するしかない。
 さて、角番大関が大勝、あるいは優勝するというケースは珍しくない。なぜか、またしても相撲入門であるが、ふだんは稽古をサボっている大関が、角番になると本気で稽古するからである。
 それなら、不断からもっと稽古しておけば横綱になったり、もっと勝てるではないか、と思う人がいるかもしれない。むろんそうだが、それを言うなら学者や学生が、論文やレポートを締切日が来てから書き始めたり、締切前日に徹夜して書いたり、修論提出日になって駆け込んできたりするのはなぜか、というのと同じだ。まあ教授になってしまえば、締切を二年くらい遅らせても、地位には影響しないわけだがね。
 さて、将軍が「作り阿呆」だと分かって、『篤姫』も面白くなってきた。なお史実では、家定は病弱だっただけで、別に阿呆だったわけでも作り阿呆だったわけでもない。ところで学者の世界でも「作り阿呆」をする必要はあって、三十代前半までに著書を出すとか、十数本も論文があるとかいうことになると、嫉妬されて就職しづらくなるからね。もっとも専任になってからだって、あまり本を出したりしないほうがやりやすいわけだが、まあ作り阿呆のつもりでいるうちに、本当に阿呆になってしまう教授も多いけどね・・・。

                                                                        • -

とってはいないのだが、朝日新聞に、死刑に関する各界100人へのアンケートとかいうのが載ったようだ。まあ、反対論者を多めに集めているようだし、「回答の一部を掲載しました」と言い条、『なぜ悪人を殺してはいけないのか』で死刑廃止論を徹底的に論破した私には何も言ってこなかったわけだから、これであの本が「マスコミ的には反時代的」であることが証明されたようなものだ。いやまあ、私の本を誰もが読んでいるとは思っていないが、見事な言論統制だねえ。
 (小谷野敦