閉所恐怖症

 時おり、西洋の評論の翻訳で「これは閉所恐怖症的であり」などというのを見かけるが、それは「閉所恐怖を引き起こす」の誤訳だろう。claustrophobicとあるのを、英和辞典で引いてそのまま訳している悪い例だ。
 私立大学でよくあるのが、研究室がずらりと並んだ廊下で、あれは怖い。もちろん窓はないし、ホテルのように装飾もなし、無機質だから、私などは閉所恐怖に襲われる。不思議なことに、国立大ではそういうことはない。というのは、どれほど廊下が長くても、いちばん向こうに明り取りがついているからだ。もっとも、私が知っているのは阪大と東大くらいなのだが、閉所恐怖を与える建物を建ててしまうというのは、やはり建築家が無能なのだろうと思う。

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新聞報道で、東大総長・小宮山宏が「過去の権威に頼ったりせず、自ら先導していく必要がある」などと入学式で話したとあった。で、現物を見てみたら、日本は環境問題先進国である、自分もハイブリッド・カーに乗っているとあった。
 日本は自動車問題では後進国だと思うがね。都市部への乗り入れ制限だってしていないし。だいいち、そう言うなら自動車になど乗るべきではないのだ。仮に職務上乗らなければならないとしても、「自動車は必要最低限の使用に限定すべきだ」とか言うべきである。かといって、このように自ら先導しても総長は褒めてくれまい。過去の権威には頼らなくても、現在の権威には頼るべきなのだろう。
 だいたい、東大の理系の総長というのは、教養のない人が多い。私が学生だった頃の森亘の挨拶など、「今や東大生を相手にしてくれるのは同程度にダサい某女子大生だけ」などとやっていて、当時呆れたものだ。
 あとこないだ毎日新聞野田聖子が出ていて、酒好きだとかでかでかと出ていたのにも呆れたね。大酒呑んでトイレで失神したとか書いて、編輯委員・鈴木琢磨「酒豪の首相、いいかもなあ」だとよ。酒飲みのおかげで困っている国民が大勢いるというのに、タバコ好きとかいう記事は絶対出さないくせに、酒はいいのか、鈴木よ。しかも野田聖子、凍結しておいた受精卵はどうしたのだ。
 (小谷野敦