大橋先生は何を?

物語は、森鴎外の『舞姫』なんかと似ているところがある。しかしかつての恋人の踊り子がドイツからはるばる日本にやってきたとしたら、当時としては、たとえば脚気は病原菌が原因であるという間違った説に固執し、日露戦争では戦死者と同じくいら多くの脚気の死者を出し続けた元凶でもある当時のドイツ流医学を範として仰いだ帝大医学部につらなるエリート軍医の森鴎外は、そんな踊り子ごときと結婚することはできず、相当に悩むだろう。苦しむだろう。苦しめばいいというのではないが、しかしもし、全く苦しまず、それどころか十年後にドイツを訪問して、昔、下宿していた家を訪れ、かつての恋人の踊り子が、自分の子供を産んで死んだという話しをきかされるという能天気な展開よりはましであろう。幸い、そういう結末を鴎外は選択しなかった。

 どうも大橋洋一先生のおっしゃることがよく分からない。鴎外の恋人エリーゼ・ヴィーゲルトは、鴎外の帰国とほぼ同時に鴎外を追って日本に来ている。そして小金井良精がもっぱらエリーゼの説得に努め、エリーゼは帰国した。これは星新一の『祖父・小金井良精の記』で詳細に明らかにされている。いったい大橋先生は、どういうつもりでこういう文章を書かれたのであろうか。さらに付け加えるならば、その当時、日本人エリートがドイツあたりへ留学して下層の女に子供を産ませ、手切れ金を与えて帰国するという例はほかにもあった。「舞姫」という作品のことを言っているのだろうが、あれは半ば事実小説である。「テクストの外部は存在しない」としても、小金井良精の日記もまたテクストである。

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ところで、福田内閣安倍内閣の閣僚をほとんど引き継いでいるが、こういうのを「居抜き」という。小渕が倒れた後の森内閣もそうだった。英語圏にはfurnishedという、家具付きの貸し部屋があるが、日本にはそういうのはない。転出するとき、後の人が使うかもしれないからガスコンロくらい残していってもいいのではないかと思っても、それは許されない。日本にギャラージ・セールがないのと同じか。それで「モッタイナイ」などという語をどこかの新聞がはやらせている。それならこういう習慣をやめろや。

http://www.pipeclub-jpn.org/column/column_01_detail_06_09.html
 更新されました。「悪魔の証明」のところ、ウィキペディアででもちゃんと調べるように。

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郵政民営化です。民営化に反対して郵政公社を辞めた稲村公望とかいう人を「イプセンの『民衆の敵』の主人公のよう」とか「ドン・キホーテ」とか呼んでいる人がいるが、はっ。民営化に反対して自民党を脱党した国会議員もたくさんいるのに、そんな名に値するかどうか、疑問だね。