岩井茂樹氏著について

 日文研から、岩井茂樹『恋歌の歴史』という大胆な題名の冊子が送られてきた。分量的には一冊の本である。日文研叢書の一で、岩井氏の本は既に『恋と茶道の関係史』を持っている。岩井氏は総合研究大学院(総研大日文研に附属する大学院)で「歌道と茶道における恋歌の諸問題」で博士号をとっており、この二冊はそれを別々に編集しなおしたものらしい。
 さて茶道のほうは、「恋は茶道の精神に反する」とされるくらいなので、これは興味深い主題だ。しかし恋歌となると、汗牛充棟ともいうべき著作がこれまである。果たしてどれほど新発見がありうるかと思って参考文献を見ると、まあ国文学者のものが主で、私の本はない。なくたって成立はするけれど、たとえば「日本の恋歌は西洋のそれとは違い、ほとんどが恋の喜びを詠ったものではない」などとある。いったい岩井氏は、西洋の恋歌として何を考えておられるのであろうか。古代ローマの恋愛エレギーア詩から中世トゥルバドゥールその他の恋愛詩、ダンテやペトラルカ、清新体詩人からロマン派に至るまで、西洋の恋愛詩もまた、そのほとんどは恋の苦しみを歌ったものである。つまり、間違い。そしてこういう間違いは、私の本を読んでいれば犯さずに済むのだ。
 ところでこの二冊の本を見ても、「1969年生まれ、総合研究大学院大学博士課程修了、国際日本文化研究センター研究部技術補佐員」という紹介しかなくて、どこの大学を出たのか分からない。
 そこで調べると、驚くべき経歴(は大げさか)の持ち主で、1991年、広島大学工学部卒、同大学院分子生物学修士修了、愛知学院大学日本文学修士修了である。愛知学院大学に大学院があったというのが驚きだ。そして現在はタイのチュラロンコーン大学講師。