書店へ行ったら、岩波文庫の百冊というのをやっていた。あのシュリーマン嘘八百自伝『古代への情熱』が相変わらず入っていて困ったものだと思ったら、『図書』臨時増刊で、「私の三冊」というのが置いてあったから、さあどいつが『古代への情熱』を推しているのかと、見たら、尾木直樹・法政大教授、鈴木晶・同、そして吉村作治であった。まあ三人が三人とも、まあなんというか、バカで名高いというか、そういう人であるが、しかし法政大はバカ教授率高いなあ。
 シュリーマン自伝が嘘八百だということを書いた本は、三冊も邦訳がある。
・デイヴィッド・トレイル『シュリーマン−−黄金と偽りのトロイ』(青木書店)
・キャロライン・ムアヘッド『トロイアの秘宝 その運命とシュリーマンの生涯』(角川書店
・エーベルハルト・ツァンガー『甦るトロイア戦争』(大修館書店)
 しかし、私だって、気づいたのは一昨年であるから、勧めた三人を責める気はない。むしろ、分かっているはずなのに『古代への情熱』を絶版にせず、こうして若者に勧める岩波の姿勢のほうが問題だと思う。
 さて・・・・うふふ、問題の佐藤優、いました。勧めているのはまっさきに『神皇正統記』。なんて書いてあるでしょう。「南北朝動乱期の南朝イデオローグによる歴史・思想書で、多元的世界観のもと寛容を原理とするところに「神の国」である日本の伝統があるという。偏狭な日本ナショナリズム脱構築するための好著」。岩波向けに粉飾してますねえ。『神皇正統記』で偏狭な日本ナショナリズム脱構築できるなんて、水戸黄門もびっくりである。それに「南北朝」だって。吉野朝じゃないの? ジュンク堂では鷲尾雨工『吉野朝太平記』をちゃんと売っているのに。さらに「南朝イデオローグ」だって。佐藤は、南朝正統で決着はついている、と言っているのに。
 「イデオロギー」というのは、証明されていないテーゼの集まりで、イデオローグとはそれを主張する人。なぜ佐藤が「南朝イデオローグ」なんて言うのか。じゃあ南朝正統論は証明されていないのか? まるでマルクス主義者が「××はマルクス主義のイデオローグで」と言うみたいではないか。きっと「イデオローグ」の意味も知らないんだね。
小谷野敦
追記
http://d.hatena.ne.jp/gerling/20070529
 ご教示いただきました。まあ佐藤優がバカというより、岩波とか柄谷がバカというのが正しいのですが・・・。