稲垣恭子『女学校と女学生』(中公新書)を立ち読みしたら、妙なことに気づいた。こういう研究は、本田和子(ますこ)の『女学生の系譜』(青土社、1990)が先鞭をつけたものだが、割りに充実した参考文献表に本田著が載っていない。当然、本文中にも出てこない。
知らなかったとは言わせない。世にはこんなふうに、意図的としか思えないやり方で先行研究を無視する者がいて、そうまでして己のオリジナリティーを主張したいのかと訝しく思わせられる。陶智子のような弱小短大の教員ならいざ知らず、京大教授ともあろうものが(にしてはこれが最初の単著らしいが)、せこいことをするものだ。
小面憎いからいじめると、花袋の「蒲団」のおかげで「文学少女=堕落女学生」のイメージが広まった、などとあるが、当時「蒲団」が話題になったのは文壇内部だけだし、むしろその半年後に起きた森田草平と平塚明子の心中未遂事件のほうが世間を驚かせたはずだ。
(小谷野敦)