『下流社会』はパロディ本

 前に一度ここに書いたのだが、どうでもいいやと思って削除したら、その後大ベストセラーになってしまった。なのでもう一度書く。
 三浦展の『下流社会』は、佐藤俊樹山田昌弘の「階層化社会」論のパロディーのつもりで書かれたのだと思う。ところが意想外に売れてまじめに受け止められてしまったので、今さら「パロディーでした」とは言えなくなってしまった。
 その根拠は、最後の提案のところで、もし学力が遺伝ではないのなら、東大の学費を半額にせよ云々とあり、佐藤や山田の名が出ている。しかし学力には遺伝もある、ということは私が『すばらしき愚民社会』で書いたことで、これは参考文献にあがっている。従って、「もし遺伝でないのなら」というのは反語である。つまりむやみと階層社会論を煽る者らを揶揄するのが本書の意図だった、ということだ。
 ところでアマゾンには、三浦展によるこんな書評がある。

  今橋流郊外論が早く読みたい。, 2005/01/13
レビュアー: 三浦展   東京都 Japan
書く本すべて質量ともに圧倒的なことで知られる天才今橋姉妹の姉・今橋映子さんが郊外論を書くとは思わなかった。ましてその教科書をつくるとは。うーむ。ドアノー、アッジェという写真家が郊外をテーマにしていたというのも知らなかったので、さっそく両者の写真集を注文してしまった。郊外写真というとアメリカはビル・オーエンス、日本はホンマタカシだが、アッジェとはなあ。さて、本書は都市論・郊外論の主要な本を紹介するリーディングスであり、都市社会学者にはとてもできないエレガントな構成になっている。参考文献リストに挙がっている本もすべて読むべき本である(私は大体読んでますよ)。パリの郊外と日米英の郊外に違いの指摘は重要だが、そこを今後今橋さんがどう料理して、今橋流の東京郊外論を書くか。期待は盛り上がる。

 胸が痛くなるほど美しい, 2005/02/09
レビュアー: 三浦展   東京都
佐伯祐三の絵を見ると私は胸が痛くなる。そしてこの本における佐伯についての叙述を読むと、ますますその痛みが増す。絵のように美しく痛切な文章である。そういえば佐伯祐三の画集があったはずだ。そう思って私は本棚を探した。画集ではなく展覧会カタログだった。もう憶えていないが、1978年に行ったらしい。カタログを見ながら文章を読み返すと、ますます感動が深まる。今橋さんは展覧会カタログの本も書いている。今度はそれも読もう。

 東大助教今橋映子の本二冊のもので、妹今橋理子学習院女子大助教授。なんか、今橋さんへの恋文のようである。姉の本への書評で、「天才姉妹」などと書いてしまうのもまた・・・。ここに三浦の、中流階級への痛切な憧れが感じられるではないか(もっとも今橋姉妹の実家は東京郊外なので、中流とは言えないだろうが――この場合の「中流」とは古典的な、使用人を使っているような家、という意味)。                    (小谷野敦