リチャード・アッテンボローが死去した。訃報は「ガンジー」の監督とし
て紹介したが、私はアッテンボローはやはり俳優としてのほうが優れていた
と思う。と言えば「大脱走」だろうが、私はリチャード・フライシャー監督の
ミュージカル映画「ドリトル先生不思議な旅」の、サーカス団長ブロッサム
として最も記憶したいのである。というのは私はこの「ドリトル先生」が大
好きで、くりかえし観ているからである。
一九六七年、主演はレックス・ハリソンで当時五十九歳、アッテンボロー
は老けて見えるが当時四十三歳である。友人のインディアン(当時の呼称)
ロングアローから贈られた双頭のラマ・プッシュプルをサーカス団へ売りに
行き、その収益でドリトル先生は南の海へ大海カタツムリを探しに行くのだ。
人気のある映画だが、あまり名画とは言われない。監督のフライシャーは、
映画史的には、黒澤明が『トラ!トラ!トラ!』の監督を解任されたあと、
特段の藝術的苦悩もなく娯楽映画に仕立て上げた職人的監督として知られる。
申しわけないのだが、私は井伏鱒二(実は石井桃子)が「ドゥーリトル」を「ドリトル」として全訳した原作は、色気がないしそれほど好きではない。映画は、原作か
らいくつかのエピソードをつなぎあわせ、サマンサ・エッガーをヒロインに
して、あろうことかドリトル先生の恋まで描いてしまっている。
日本では宝田明がドリトル先生の吹き替えをしたものを、NHKで放送し
た。私は中学生の時に二回観たが、まだビデオがなかったので、二度目には
録音した。最後にドリトルが、大きな蛾で作った飛行艇でパドルビーの町へ
帰ってくる幻想的なシーンは、終わってから現実に帰るのが難しくなるすば
らしいものだった。そして実は、この吹き替えによって、この映画は一級品
になったのだが、残念ながらこの吹き替えはビデオにもDVDにもなってい
ない。それどころかNHKでも最近は字幕スーパーでの再放送になったが、
「差別用語」のせいか。ぜひ吹き替え版をDVDで出してほしいのだが、無
理なのかなあ。